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春風の季節、工業地帯から空を見上げる|X-T3
横浜は日本有数の港町です。「銀の世界の写真旅Ⅰ」では、雪に包まれたまっ白な横浜の姿を目にしました。1年を通して、映像学区はこの街の春夏秋冬あらゆる表情を写しています。 季節は移り変わって春の陽気に包まれる3月。海風のあたたかいこの季節には、横浜市南部の「ガチの工業地帯」である根岸を訪れました。ここにはエネルギーや物流の拠点が集まっています。JX(ENEOS)の石油基地はここから関東にガソリンを届けます。J-Powerや東京電力の火力発電所は、ここから首都圏に安定した電気を届けます。南本牧のコンテナターミナルには海上コンテナが無数に並びます。どれもすがすがしい青空が似合う建築物ばかりです。 FUJIFILM X-T3とレンズたち(35mm、56mm、10-24mm)をカバンに放り込みました。いつもより身軽な装備で日本を支える拠点を持って巡ります。 Ryuto_tokutetsuさん ( @ryuto_tkg )が今回のお散歩を誘ってくれました。彼のすばらしい作品は「PVSF」という映像作品投稿祭で公開されています。α6400で撮影された動画は、1:1フォーマットの映像記録に生まれ変わりました。ぜひご覧ください。
JR宗谷本線をゆくラッセル列車を追う|4K
ゆっくり映像学区の動画シリーズ「銀の世界の写真旅」、第2章では日本の最北端である北海道を目指します。現在鋭意制作中ですが、編集の済んでいるカットから厳選して先行公開します。 本作では、北海道の旭川から稚内までを結んでいるJR宗谷本線を訪れます。厳冬期になると昼間と深夜にラッセルが走る路線です。廃止の続くJR北海道管内でも、この路線は立派な"本線"としてしぶとく生き残っています。 JR宗谷本線は、日本最北への路線です。 このラッセル列車が走るダイヤは、通常の列車と同じようにほぼ固定されているようです。ただし気象次第。運よく走ってくれると、威厳のある雪かきの姿を拝めるため、撮り鉄のみなさんには人気の列車です。 集落のない森林地帯の中にチラチラと見えるのは、ラッセル列車の作業灯です。私はこの光景をみて、「まるで深海を神秘的に泳ぎ回る巨大生物のようだ」と思いました。彼方に見える線路が少しずつこちらに近づいてくるのを見ると、電動スタビライザーを抱える右手が震えそうになるほど興奮します。 動画はすべて、FUJIFILM X-T3を電動スタビライザー DJI RSC2に搭載して撮影しました。レンズはXF10-24mm F4。いつもおなじみの広角ズームレンズがここでも威力を発揮してくれました。表現豊かな4K60p 10bit収録によって、編集もラクでした。ちょっぴり後悔しているのがホワイトバランスです。AWD(オートホワイトバランス)が転けまくるというX-T3のクセは、覚えておかねばと思いました。 ※この撮影は、雪道に慣れているドライバー・周囲を確認する担当・最小限の機材を持ったカメラマンという人員で、余裕ある計画をもとに遂行しています。厳冬期の撮影は危険が伴うので、(万が一)真似をする際は絶対に無理のないよう実施してください。実際に我々は路面のコンディション等を考えた結果、予定の撮影時間を半分で切り上げています。 エンジン音とともに踏切を通過する 雪を巻き上げるラッセル
映像はカンタンに人を騙していく
ウクライナで戦争が起きています。 このできごとは、世界の流れを大きく変えることでしょう。争いを憂うのは、戦場の人たちだけではなくなりつつあります。世界のVlogger・Photographerの中でも、この事態に反応するクリエイターをちらほら見かけるようになりました。政治的な発言を普段全くしないような人たちであることを考えれば、改めてこの事態がただ事ではないと感じます。 私が見かけた例を、いくつかご紹介します。 ① ロンドンを拠点とし、ニューヨークや東京での取材作品も多いフォトグラファー、Joe Allamさんは『This week.』という動画を投稿しています。彼は「私になにができるのか」と自分自身に問い掛け、ロンドンの反戦集会をフレームに収めています。 "The images taken are just JPEGs straight out of camera, sharing the scenes I saw and amplifying voice." この動画の写真はJPEGの撮って出し、と概要欄に書かれていました。SOOC(撮って出し縛りの写真撮影)という文化がストリートスナップにはありますが、まさかこのようなシーンで本領を発揮するとは想像していませんでした。いつもはRAW現像されている彼の写真とは対照的なJPEG。それは写真家が見た光景を、まさに「ありのままに」伝えています。フラットな色味には、どこか灰色で重い空気感があります。 ② スウェーデンのビデオグラファー、Peter Lindgrenさんは『Why this is important...』という動画を投稿しています。主にロシアのフォロワーに向けて「正しい情報をつかみましょうね」と呼びかける内容でした。 「(前略) the first of the "Popular filmmakers" that speaks about the not-called "WAR".」とコメント欄の誰かが書き込んでいました。Lindgrenさんは初めてウクライナ情勢に言及した著名ビデオテック系インフルエンサーの1人だと思われます。 映像は感情を揺さぶる きょうの記事で1つだけ述べたいことは、「映像はカンタンに人を騙せる」ということです。 戦争がSNSで撮影され全世界にシェアされる時代になりました。この度のできごとで見る映像の大部分は、テレビ局の大きなENGカメラではなく、だれかのスマホカメラで撮影されています。 その中にはセンセーショナルなものも多いでしょう。 でもそれがリアルの規模に即しているか、判断するのは難しい作業です。できごとの規模はエフェクトや構図、コンテクストによってごまかしがきくからです。 3DCGやゲームの画面がリアルになった現在では、虚構も簡単につくることができます。うp主は「CGなんて余裕で見破れるでしょ……」と高をくくっていたのですが、いざプロパガンダに化けたCGを目にすると、どれもまったく見分けがつきませんでした。専門家のTwitterを見ていても、「これはフェイクだ」と気づくのに数日以上かかっているケースがあります。 虚構のストーリー 映像は「ストーリー」を伝えます。ところがストーリーは偽装が可能です。しかもこれはプロパガンダみたいなデカい世界観のお話ではなく、誰だってできることです。ゆっくり映像学区の動画にだって、実は虚構がたくさんまじっています。 カメラを持つ手元のGoPro映像と、撮った写真がまったく別物でもバレない。シャッター音が後付けでもバレない。信濃川の映像が、音だけフリー素材であってもバレない。現実は「越後湯沢→横浜」の旅だったとしても、シナリオをごまかせば「横浜→越後湯沢」に変えたってバレない。「横浜の雪景色を見て、本物の雪国を観たいと思った」という旅の動機は怪しくてもバレない。…
雪の横浜から越後湯沢へと – 銀の世界の写真旅
イントロダクション 2021年から2022年にかけて、日本は各地で"雪"を迎える冬シーズンとなりました。 12月には中部地方や関西地方で雪のマーク。彦根ではかつてない積雪に苦しめられたほか、名古屋市沿岸部でも雪が積もり、高速道路が規制されました。年明け後には、首都圏でも雪が降ります。東京では5cm以上の積雪を観測。北海道では札幌周辺で慣れない量の雪が降り、JRの都心エリアに深刻な打撃をもたらしました。 四季のある日本に住む人々は雪に対して様々な感情を抱きます。たしかに気象のせいで交通が不便になったり、建物に被害が出たりするのは面白くありません。でも雪に対する印象はいつもネガティブなものばかりではないのです。 珍しい降雪に思わずスマートフォンをかざす人々の表情を見ると、まるで冬の寒さも少し和らいだような温かい気持ちになります。都会の平日に雪が舞うなら、その1日はちょっと特別な休日の気分です。 日本に住む人々は、雪に対して様々な文化を形成しました。雪多いこの冬、私たち映像学区はそんな文化のごく一部にふれて『銀の世界の写真旅』として記録することにしました。 今回はその第Ⅰ章( Chapter.1 )です。 『銀の世界の写真旅』第Ⅰ章 首都圏に雪が舞った日、横浜のみなとみらい地区を散策します。 4K60fpsで撮影されたスローモーション映像は、ゆっくりと白く覆われるモノクロの港町を綺麗に描きだします。モダンな建築がならぶ横浜は、ゆっくり映像学区の拠点としてこれまでいろいろなカタチで登場してきました。普段から見慣れている街だからこそ、雪の風景には圧倒されます。 旅の後半ではJR上越線に飛び乗って、新潟の越後湯沢駅周辺に足を伸ばします。 JR上越線は、高崎-新潟間を結ぶために作られた鉄道です。1931年に開通した「水上-越後湯沢」区間では、厳しい自然環境の谷川岳・清水峠をつらぬくために複雑な線形とトンネルを駆使して、ここを突破しています。地図をみると、その無理やりとさえいえる構造に目が釘付けとなります。しかも清水峠には、現在まで自動車の入れる一般国道が開通できておらず、高速道路の関越トンネルか三国峠を通るしかありません。 そんな歴史に目を向けていると、現在のJR上越線「上越国境」には寂しさも感じます。上越新幹線の開通によって、1日5往復程度の旅客列車と貨物列車のみが走るだけとなった線路は、もはや近代の遺産と言っても過言ではありません。複線かつ長いホームが残る越後湯沢駅にも、10両を超える定期列車はしばらく来ていません。 そんな哀愁漂う湯沢周辺を、FUJIFILM X-H1と単焦点レンズで写します。
電動スタビライザー初心者が見落とす6つのコト
一眼レフ・ミラーレス一眼用の電動スタビライザーは、すっかり映像制作の定番となりました。 まるで重力を無視したようなジンバルの動きをみると、撮影していてちょっと感動します。一方で、どうしても初心者にはとっつきづらいポイントもあると感じます。今回は電動スタビライザー初心者が本当に気を付けるべきことをまとめます。 ジンバル選びでやらかす はじめに書かなくてはならないのは、電動スタビライザー選びのミスです。各メーカーの製品も進化を重ねていますが、選び方を間違えてはどうしようもありません。 どれくらいのカメラとレンズに耐えられるかの指標として、ペイロードがあります。ただ、これはあまりあてにならない指標でもあります。ペイロード以下の総重量であっても、極端に長いレンズや横長のシネマカメラ(BMPCC4Kなど)はバランスが取れなかったり、バランスを取ろうとしてアームに干渉したりします。 皆さんがチェックすべきなのはペイロードではなく、「そのボディ+レンズの組み合わせがバランスを取れるのか」です。メジャーなボディとレンズであれば、メーカーの公式対応表を見てみましょう。でも対応表に乗っている組み合わせはわずかです。私の場合、マニアックなレンズを使うのであれば、YouTubeで個人が上げているテスト動画を探します。 似た寸法のレンズがテストされていれば、参考にしていいと思います。気を付けたいのは「ウェイト(おもり)をつけて乗らないこともない」みたいな例です。旅行先でのバランス調整が不便になるので、大型のジンバルを探すか、別のレンズを検討するかしたほうが良いと思います。 上向きのバランス調整を忘れる 「レンズを上にむけるバランス調整」を忘れるクリエイターは多いです。周りのクリエイターさんでも忘れてしまった例をたくさん見ました。偉そうにこの記事を書いている私も、はじめて「Zhiyun Weebill LAB」という電動スタビライザーを導入してから半年ほど、1か所バランス調整を忘れていました。困ったことにチュートリアル見ててもなぜか忘れるのです。 ここにバランス調整の手順を書いておきます。 ①カメラの前後(カメラ底面のプレートを前後調整) ②レンズを上に向ける(グリップ側のアームを上下調整)←だいじ ③カメラの左右(プレートまたは液晶側のアームを左右調整) ④パン軸の調整 おおむねこれくらいやれば、バランスが取れます。 ②を忘れても、モーターでカメラを持ちあげることはできます。ただし撮影中に突然脱力したり、ブルブル震えたりします。厄介なのは、初心者がこのバランス調整を忘れた挙げ句、「あれ?このカメラって載らないのかなぁ……」とか「故障?」なんて勘違いをしてしまうことです。私も昔、危うくジンバルを返品しかけました。皆さんはこの記事を読んだので、そういった恥ずかしい思いをせずに済みます。 オートチューンをしておきたい バランスのほかにモーターパワーの出力で、ジンバルの挙動が変わります。ジンバルの走り出し・動き出しをなめらかにするためにも、オートチューンやマニュアル調整のしやすい電動スタビライザーを選びたいですね。 最近ではスマートフォンと電動スタビライザーを接続し、アプリで調節するものが多いです。撮影地でさっと取り扱えるのは、スタビライザーの液晶で直接設定できるタイプです。RONINやMOZAのように、豊富なラインナップをそろえているブランドでは、こういった細かい操作感で上位機種が差別化されているようです。大きさやパワーだけではないんですね。 広角レンズで使う めっちゃ天気の悪い作例。パースが気持ちいい。 動画は16:9や21:9などのアスペクト比が主流であるため、初めから画面が狭いです。動きのあるジンバルショットでは、広角ズームレンズの使用もおすすめします。特に旅行では、レンズ交換をしなくても、視野いっぱいのあらゆるものを写すことができます。 そして広角ではブレが気になりにくいです。パースもよく効いているので、流れるようなダイナミックな映像が撮れます。私はFUJIFILM機ユーザーなのでXF 8-16mm F2.8を使ってみたいですが、高価なうえ、レンズが出っ張っていてNDフィルターがつけられないので二の足を踏んでいます。 カメラバックに入らない 初心者は威勢よく電動スタビライザーを買いますが、本当に大切なのはスタビライザーをどこまでも持ち運ぶことです。学生のみなさんは公共交通機関で移動することも多いので、特にかさばる手荷物は増やしたくないでしょう。YouTuberのレビューでは撮影中の持ち運びをレビューできても、撮影前のことは盲点になりがちです。 持ち運び対策の1つは、小さめのスタビライザーを選ぶことです。ミニマルな撮影装備で旅をしたいという方であれば、小型軽量なミラーレス+単焦点レンズでの運用もおすすめ。レンズ自体が軽いことで、電動スタビライザー自体も小さいものを選びやすいからです。軽いは正義。 例えばSONYのα6400にSIGMAの16mm、30mm、56mmの3兄弟レンズを付けるのであれば、Zhiyunの小型スタビライザー「Crane m3」でもラクにバランスが取れます。Crane m3くらいのサイズであれば、カメラバックの三脚取り付け位置にうまく収まるはずです。 私はこの持ち運びを考慮してDJIのRSC2を愛用しています。Zhiyun Weebill LAB以降の世代のミドルクラスのジンバルは、折りたたんで綺麗なA4サイズにまとまるようになったので、だいぶラクになりました。 もう1つの対策は、カメラバックを大きくすることです。Google検索で「カメラバック 電動スタビライザー」と検索してもなかなかいいバッグが見つからないのでもどかしいです。そこで、私が使用しているTARIONというメーカーのカメラバックを紹介します。 このバッグは片側に三脚を取り付けられるタイプのトラベル用フォトバッグです。横からカメラを取り出せる「サイドポケット」が付いていて、なんと折りたたんだDJI RSC2を差し込んで収納することができます。大きめのカメラバックですが、電動スタビライザーが収まるサイズとしてはギリギリです。カメラバッグ選びの参考にしてください。 TARION PBL カメラバッグ サイドアクセス 一眼レフカメラパック 大容量 小物ポーチ付き カメラリュック バックパック 撥水加工 盗難防止 created by Rinker TARION ¥7,993 (2024/04/29 22:36:34時点 Amazon調べ- 詳細)…
制作依頼を¥0 で受けてみる人のお話
趣味で動画を作っていると、制作の依頼を受けることがあります。ここで悩むのが、いただく報酬をはたしていくらに設定すべきかという問題です。ただし今回の記事では「相場はいくらくらい?」という具体的な答えではなく、「この相場でもOKか?」というお話をします。 特にまだ自信がない頃だと「¥0 が気楽だなぁ」と考えると思います。ところがTwitterのタイムラインを覗くと、しばしば「若者が動画を¥0や低予算で作ることで、動画を仕事にしている人が生活できないほど相場が落ちる」との主張をよく見かけます。たしかに相場が落ちるのは正論っぽさがあり、¥0 受注を敬遠している人も少なからずいるでしょう。でもそのためらいは不要だと主張したいです。 この記事には現在の私の考えを残します。でも記事を塗り替えるような正論が返ってきた時には、突き返さず参考にしたいです。 動画制作の相場を破壊すると問題なのか。 動画制作の相場はどんどん破壊されるべきだと思っています。あまり躊躇はありません。 様々なチュートリアルや解説をみると「動画を小ぎれいにするノウハウをわかっていながら、なかなか本質を公開してくれない」という状況が昔からあります。これは本当に面倒です。なぜなら創作の世界に入ってくる人間にとって何もハッピーではない、余計なハードルを置いているようなものだからです。 ゆっくり映像学区はその「共有されにくいノウハウ」が何であるか楽しく探求し、発信しようとしてきました。エゴサの反応を見るに、私も粛々と相場を破壊している人間のひとりだと思います。 もっとクリエイターの技術はオープンであるべきです。それは相場を下げますが多くの人を幸せにします。むしろ進歩や差別化のない創作でお金を儲ける人に、こちらが合わせる必要なんてない。 だって、想像してみてください。伸びの悪くなった YouTuber が、まわりのインフルエンサーに対して「もっと空気を読んでもろて」とお願いするなんて片腹痛いですよね。「相場が崩れるから¥0 受注やめろ」なんていう主張もそれと大差ない主張です。 Wordのたとえ。 江戸時代は、本が大衆文化として根付き始めた時代です。当時本を出版するために1文字ずつ書いたり、木版を彫ったりしていました。そのためのだけの職人が存在し対価を得ていたのです。本も高価だったので、"TSUTAYAレンタル"のようなカタチ(貸本)で江戸っ子市民にシェアされていました。 今はMicrosoftからWordという文書編集ソフトが販売されています。これに文章を打ち込む操作を有償依頼する人なんてほとんどいません。誰だってキーボードを叩けば何万字でもWordに書き込むことができます。それ自体には対価なんて発生していません。本も安くなり、電子書籍のサブスクも生まれました。 モノには付加価値をつけることで、ようやく魅力ある有償サービスになります。たとえば小説家は「ストーリー」を文章の打ち込みに付加することで対価を得ています。レポート宿題代行サービスも「アイデア」や「時間短縮」といった要素を、文章の打ち込みに付加することで対価を得ている。儲けようと考えるならば、それ相応の付加価値をつけるのが義務であるわけです。 動画編集の作業は、先ほど述べた江戸時代の状態から、現代の状態に移行しつつあるのではないでしょうか。スマホ1台でも記録映像をつくることはカンタンですし、まったく動画方面の教育を受けなくてもPremiere ProとAfter Effectsでプロっぽい編集ができます。もう昔とは違うのです。 逆に適切な付加価値が存在すれば相場が落ちても問題ない。プロでいられる動画クリエイターは「安心・責任・ほかにない技術・ほかにない組み合わせ」を付加価値として売るようになるだけのこと。相場の変化なんて、社会にとって至極当たり前の流れであり、我々趣味の人間が心配してどうこうなるタイプのものではないです。 私はこの"変化"を「カジュアル」という言葉でよく表現します。大してお金をかけることなく、カジュアルにできる範囲で素晴らしい作品に仕上げるにはどうするか。それを考えるのが映像学区のコンセプトのひとつです。 次に仕事と趣味の境界があいまいな今を、ARIAのたとえで説明します。 ARIAのたとえ。 私のお気に入りのコミック・アニメに『ARIA』(天野こずえ 2001年)という作品があります。そのストーリーは、主人公がベネチアのような街で観光ゴンドラを操る"水先案内人(プリマ・ウンディーネ)"を目指すものです。こちらのARIAの冒頭のシナリオは、趣味と稼ぎのあいまいなラインをいくクリエイターに、ちょっとしたヒントを与えてくれます。 主人公は冒頭、見習いの水先案内人なので、まだお客さんを乗せることができません。しかしある日、どうしても主人公のゴンドラに乗って街へ繰り出したい、となかば強引にお願いする幼い女の子が登場します。 心優しい主人公は引き気味でしたが、そこで女の子は"今からお友達です"といってゴンドラに居座ることにしました。仕事として、お客様として乗ることはできないけれど、お友達として練習につきあってしまおうというわけです。このお友達の概念はおもしろいと感じます。 さきほどのwordのたとえのように、わたしたちが創作をしたとしても、いつも絶対に対価を得なきゃいけないわけではありません。それは当然のことですが、なぜだか私たちは時々その感覚を忘れてしまいます。作って楽しけりゃ、あとは自由でいいわけです。 動画制作がプロに頼むだけではなくて、個人でもできるカジュアルな文化になった現代。動画の依頼についても、そのような柔軟さがあったって良いのではないでしょうか。相手が仕事としてメールを送ってきたなら、自分の出せる最大限と求められているものを合致させる。お友達として依頼されたとしても、まるで旅行のホテルを決める担当になったような感覚で制作をしてみせる。 もちろんお友達としてできるレベルには限界があります。たとえば、「結婚式の撮影をお願いしたい」みたいなタイプは引き受けにくいです。なぜならフラッグシップの撮影機材に加えて、披露宴の流れを完璧に理解していること、さらにすべてを収めるヌケのなさが必要だからです。おまけに失敗が許されない。 そういうプロが適切な舞台に関して「それはプロに頼むのが一番だよ」と教えてあげられる力も、ここでは立派なスキルの1つではないでしょうか。本当に良いものの価値を理解していたいものです。
ストリートスナップから誕生。Lightroomプリセットを配布します【Tokyo Rainy Street】
デジタル写真の色を操るレタッチは、今や一眼写真に欠かせない作業のひとつになっています。『映像学区』でも、これまでずっと写真の"色"に着目してきました。動画に登場する写真についても、かならず一度 Adobe Lightroom Classic に通してから色のタッチを決めています。 Pierre T. Lambert氏、Evan Ranft氏をはじめ、POV Photography界隈に名を轟かせる多くのクリエイターがLightroomプリセットを販売しています。私たちもその文化に引きずられて、オリジナルのLightroomプリセットを配布することにしました。それが『Tokyo Rainy Street』です。 Lightroomプリセットとは写真家が時短をするためのツールです。Adobe Lightroomで写真1枚ごとにパラメーターを調節しなくても、プリセットがあればボタン1つで写真を仕上げることができます。 『Tokyo Rainy Street』は、「ゆっくり写真旅#1 東京・日本橋」で撮った写真から生まれました。 雨・曇り・雪など、コントラストの落ちる空模様の下で写真を撮ると、インパクトに欠けるイマイチな写真になりがちです。これまでの雨の写真旅では、ほぼすべての写真に強めのレタッチを加えることになり面倒でした。 そんなシーンでこのプリセットを使うと、空気感全体をうまく締めることができます。のっぺりしたつまらないRAW画像でもすぐに華やかにできます。 のっぺりした色を叩き起こすためだけのプリセットには欠点もあります。フィルター感覚でRAW画像に当てただけでは「ギトギト」になってしまうからです。 しかしこのプリセットを引き算的に使えば、さほど問題にはなりません。 ぜひ『Tokyo Rainy Street』に設定されているキツめのパラメーターを適宜抑えてみてください。お手軽プリセットとしてある程度使えるはずです。実際に「ゆっくり写真旅#4 高尾山の紅葉」や「銀の世界の写真旅」でも重宝しています。 『Tokyo Rainy Street』の楽しみ方 ここで『Tokyo Rainy Street』の詳細について説明します。 このプリセットのベースは、Lightroomにデフォルトで入っているプリセット「モダン10」のトーンカーブです。「モダン」の名前の通り、クラシックの風味が感じられる街、日本橋の写真にあてた設定をそのまま提供しています。さらにモダンな都市にあわない色は削り、合う色を増幅しています。 「Tokyo Rainy Street」には3つのクセがあります。 1つ目のクセはホワイトバランスです。ホワイトバランスをあえて暖色に傾けているため、色味が「黄色や橙色」に傾くことがあります。その時はホワイトバランスを青側に戻してください。また、暗所では緑に傾くこともあります。 2つ目のクセは明瞭度です。Instagramやブログで見栄えのするような写真をめざしているため、「明瞭度」を強めに調整し、さらに「かすみの除去」もかけています。被写体に応じてこれらのパラメーターを控えめにすると扱いやすいです。 3つ目のクセは周辺減光です。古き良き時代のレンズの味を出すために周辺減光をわずかに付けています。しかしあなたの写真に、周辺減光が必要ないこともあります。そんな時は「周辺減光(ハイライト優先)」の数値をゼロに戻してください。 『Tokyo Rainy Street』推奨環境…
クリエイターの緩いつながりに感謝するお話
うp主が頻繁にやり取りしているクリエイターが10人ほどいます。映像学区としての活動の外で、私が個人的に「この人たちとは無限に喋っていられる。おかしい。」と感じている仲間がいるわけです。 私がここ数年たくさんの動画を作ってこられたのは、彼らの支えによるものだなぁと強く感じています。今回はクリエイターの"緩く・狭く・広いつながり"によって、私が得たものについて書きたいです。 居心地の良い関係とは何だろう インターネット上の関わりは万人にすすめられるものではありません。入るワールド(界隈や集団)を間違えるとスキルが高すぎて殺伐としていますし、逆につまらないことばかりで揉めるケースも山ほどあります。 では居心地のいい関係とは、はたしてどんなものでしょうか。 はじめに、ある価値観だけが同じ関係がうれしいと思います。価値観が全く違うメンバーがそろうと確実に破綻します。かといって、環境や価値観がすべて同じではつまらないです。 次に、すべてを補完しあえる関係がうれしいと思います。ある人はサーバーを立ち上げ、ある人はネットに出回らないような話題を提供する。ある人は撮影旅行の計画を練り、ある人は撮影構図を理解し、ある人は撮影技法をマスターする。ある人はミニチュアをアレンジし、ある人はミニチュア用のパッケージをデザインする。 1人1人が、もはや無意識のうちにでも存在意義を発揮できてしまう。そんな環境ほど面白いものはありません。やりたいことをやりたい放題に求めていたら、たまたま嚙み合ってしまう。もちろん稀に噛み合わないこともあって、こじれると少々厄介ですけれども。 自分を客観視する "つながり"があったことで、創作観を整理することができました。 映像学区を立ち上げてからのもっぱらのテーマは、みんながもっと楽しくカンタンにクリエイター活動する方法を共有することです。たくさんの動画・メディア・SNSを研究して、いまある課題やハードルを見つけています。日頃の投稿ではあれだけ落ち着きを装っていますが、活動の源となる感情は「怒り」です。「なぜこんなに大事なことを誰も言及しないんだい?」って感じで。 こういった怒りの発見を重ねると、だんだんと不満が自分にたまっていくことに気づきます。面倒なのは、これがしばしばTwitterやYouTubeでは表に出せないような不満であることです。これは何も映像学区のうp主に限らず、全クリエイター共通の悩みではないでしょうか。たとえば、ビジネス感が露骨に強いクリエイターを「なんとなく感情的に」という理由で嫌う人はたくさんいるでしょう。あるいは嫉妬だけで誰かを嫌いになるかもしれません。思ったことはしょうがない。 このような不満というか負の感情を、うまくTwitterに書くことはできません。ネットに生きる人が皆、140文字の文脈を読める人とは限らないからです。あいまいな内容で面倒事が起きるくらいならツイートを控えるべきです。 そんなときは仲間だけに共有して「この価値観は受け入れられないかも~()」と流すことにしています。はたから見れば完璧に陰口ですが、私は別に構わないと思っています。不満をため込んだあげく苦しむよりも、よっぽど穏便に済みます。自分の創作観を正直に振り返ることで、似たような不満を抱えているクリエイターも"いなくはない"と理解するに至りました。 少し話がズレてきましたが、これはつまり自分の方向性を客観的に確認できるということです。「こういう主張ってアリだよね?」と話題を振ってみることで、自分がズレた言及をしていないかチェックすることができました。もちろん完璧な指標ではないでしょうが、大きな指標にはできるはずです。 見知らぬ価値観を理解する "つながり"によって、自分の知りえない世界を理解する機会にもたくさん出会いました。 私は6年間ほど中高一貫の進学校に通っていたので、周りは東大や東工大のようなチョ~難しい大学を目指す学生ばかりでした。環境自体は紛れもなくいいと思いますが、世の中100%いいものなんてないわけです。 そういった環境は自分を追い込むにはいいものの、だんだん視野が狭くなります。例えば高校時代に通った塾の先生が「早稲田はFラン」みたいなことを、ノリでおっしゃるわけです(いま振り返れば笑い飛ばせる冗談でもなかったような気がします)。洗脳とまでは言わなくても、なんだか狂気のようなものを感じます。 全国の若者の約50%は大学に行かずに就職をするそうです。もちろんその割合くらいなら誰でも知っています。けれども、彼らのような「自分とは離れた環境に生きる人間」の思考に触れる機会がひとかけらもないのです。どんな事情があるにせよ彼らの思考・概念を知らなければ、世の中を考えるファーストステップにすらいけない。クローズドなDiscord通話のような環境では、クリエイターの経歴を知る機会もありましたが、幾度となく「まだ知らないことだらけだ」とハッとさせられました。 たしかに受験中には知らなくてもいい情報かもしれない。でも大学生のあいだも視野がぐっと狭いまま生きて、将来いざ意思決定に携わる時、壁になってもおかしくはないと想像しています。SNSでも、理解不足は立派な炎上原因の1つでしょう。 6年ルール 私はここまでの人生で、6年に1回友人関係をリセットしてきました。家族の転勤や受験があったからです。一定期間で知り合い関係が終わるのは、寂しいばかりでしょうか。いいえ実感としてそんなことはありません。常に自分を新しい環境におくことで「視野が広がる(気がする)わね」とポジティブにとらえています。 はたして、今回述べた「狭くて広いクリエイターのつながり」がどれほど続くのかは分かりません。けれど絶対に他では得られない知見を得られている、貴重な空間であることには間違いないはずです。いつも感謝しています。
真夏の浅草、ブルーインパルスが駆ける|FUJIFILM X-T3
記憶に残したい。そう強く感じる写真には、1年に一回くらい出会うことができる。2021年、私が記憶に残したい写真を選ぶのは簡単だった。それは、東京オリンピックの開会式の日、東京都心を2周したブルーインパルスの写真である。 今になって2021年を振り返ったとき、どうしてもブルーインパルスの記憶を置いてきぼりにできなかった。あのわずかな時間、一緒になって浅草でブルーインパルスを眺めた人たちのキラキラした最高の表情が忘れられない。それはカンタンに観られる光景ではないし、現地にいた人じゃないと分からない圧倒される感覚があった。この独特の感覚は、もっと多くのみなさんに共有されるべきだと思う。 eizo-gak.comのコンセプトは、うp主(雪原てとら)の思考を書き残すこと。だったら、やはり記事を書かずにはいられないと考えるようになった。この記事では、動画では触れなかったことについても追加している。 Google Earthでロケ地探しを重ねて、ブルーインパルスを撮影するなら隅田川沿いがベストだと判断した。せっかく東京に機体が来るなら、広角で建物と絡めてみたい。この地点でうまくいけば、現代の東京を象徴する東京スカイツリー・首都高速・アサヒビール本社などを、写真のストーリーに絡めることができる。 当日11:00まで機体通過経路は未公開だったが、熱心な航空ファンの経路予想を信じればここはまず外さない。しかも直前になって2回通過してくれることが分かって、ちょっぴりハッピーな気持ちになった。ここでは2回目の通過を振り返っている。 隅田川の空気感 私はずいぶん早くに到着。今回行動を共にするYUさんも、まもなくやってくる。 撮影機材を準備してからは暇なので、レンズを貸し借りしてニヤニヤしたり試写したりしていた。この後、まさかこんなに人が集まるなんて思わなかった。自らのキャパを早めに確保しておいて正解。広角レンズで撮るなら、ロケーションはどうしても限られてしまうので。 周りにも観衆が増えてきた。 河川敷には、日傘に仲良く収まるカップル。隣には、キットレンズの望遠ズームをわくわくしながら取り出す少年。その向こうには、フルサイズレフ機と広角F2.8ズームを持ってきたNPSストラップ持ち、たぶんガチの写真屋さんだろう。がっしりした三脚をちょっと遠慮気味に立てたお兄さんは、300mm F2.8で準備万端。まずとりあえず、自撮り棒を構える家族連れのお母さん。スマホ片手に会社を抜け出してきたクールビズのお姉さん。カメラも何も持たず、眩しそうに空を眺める初老の紳士。 みんな楽しみ方はそれぞれ。 ブルーインパルスの通過は、もう目前に迫っている。 その時。急にあたりが静かになった。これだけの人が集まっているけれど、通過が近いことをなんとなく悟って、みんな声を抑えたのである。数分前までおしゃべりばかりが聞こえていた隅田川河川敷は、もう川の波立ちの音や首都高の車のロードノイズまで聞こえるほど。とても華の観光地、浅草の光景ではない。向こうにある東武鉄道の線路からは、浅草駅の急カーブを曲がる普通電車の轟音がはっきり響いてくる。 ちょっと不思議。緊張感とワクワク感に包まれたこの静寂な空間、すがすがしい青空とあわせて1枚撮っておきたい。 主人公登場。 かすかなエンジン音が聞こえてきた。さぁどこからやってくる? 航空ショーにすら行ったことのない私は、まったく構図の組み方が分からなかった。想定以上に高いところを飛んできているのが分かったとき、もっと上へ上へ画角を修正しなければならないと気づいた。 ブルーインパルスがいつ通るかなんて気にしていない車もたくさん走っていそうな、首都高速6号向島線の高架。ここに画角の底を合わせる。空模様はどうか。ギャルゲにも使えそうなくらいのすばらしい夏空だ。かすかな雲はもう気にならないので、コンディションは完璧。あとは盛大なスモークをお願いするだけ。 スカイツリーの真上を通過する。 まだまだ。浅草橋のゴールデンウンコビルに寄ってくるまでじっと待って。 丁寧にシャッターを切る。X-T3の小気味良いシャッター音を響かせながら、チラチラと空を見上げる。ファインダー撮影で済ませるのはなんだかもったいない気がしたので、リアルのブルーインパルスを肉眼でも追いかける。 すごく綺麗だった。 ステキだった。 早すぎず遅すぎず、優雅で白い航跡が伸びていく。 エンジン音が遠ざかって、あたりに静寂がもどる。 直後に起こった大きな拍手がなにより印象的だった。 誰も「ありがとう!!」なんて叫ばない代わりに、その言葉を心に秘めた大きな拍手だった。主催者がこの場にいるわけでも、お偉いさんがこの場に来ているわけでもない。誰かが始めた寒いノリでもない。みんながただただ心の底から感謝しているはずだ。いいものを見せてもらいました、って感じで。 コロナ禍で、別に悪意はなくとも周囲がなんとなくギスギスした空気に包まれている。そんな時代の中で、久々に感じた大勢の心の温かさだった。テレビやフィクション上のストーリーでは満たされない何かが、ここでは満たされた気がした。 大勢の人が集まればたしかに密になるけれど、だれも大騒ぎなんてしなかった。ただ童心に帰るように見とれてしまった。 広角ズーム「XF10-24mmF4」の存在 次なる経由地、東京駅の方角へ去っていくブルーインパルスを名残惜しく見送る。 さようなら。 今回の撮影はすべて「XF 10-24mm F4 R OIS」という広角ズームレンズで済ませている。これは私が、SONY EマウントからFUJIFILM Xマウントに乗り換えた時に購入した最初のFUJIFILM純正レンズだ。OIS(手振れ補正)がついた400gほどのレンズで動画にも写真にも欠かせない一本。フルサイズ換算で画角15-36mmに相当する。 広角ズームの望遠端、24mm(換算35mm)付近は人物1人を中心としたメッセージを表すのに適している。ふだん人物撮影をまったくしない私にとって35mmレンズは難しくて扱いづらい。けれどもこういう人を撮る時には、途端にチョ~ありがたい撮影機材に変身する。 またフォトグラファーのYUさんとコラボできたことで、広角ズームでの撮影に集中することができた。彼は動画内でSIGMAの70-200mm / 150-600mmを持ってきてくれたことから分かる通り、望遠~超望遠撮影を大変得意としている。私がブルーインパルスに見とれながら広角でシャッターを切っている間、YUさんは5色のストライプを描く機体を望遠で見事に収めている。