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真夏の浅草、ブルーインパルスが駆ける|FUJIFILM X-T3

記憶に残したい。そう強く感じる写真には、1年に一回くらい出会うことができる。2021年、私が記憶に残したい写真を選ぶのは簡単だった。それは、東京オリンピックの開会式の日、東京都心を2周したブルーインパルスの写真である。

今になって2021年を振り返ったとき、どうしてもブルーインパルスの記憶を置いてきぼりにできなかった。あのわずかな時間、一緒になって浅草でブルーインパルスを眺めた人たちのキラキラした最高の表情が忘れられない。それはカンタンに観られる光景ではないし、現地にいた人じゃないと分からない圧倒される感覚があった。この独特の感覚は、もっと多くのみなさんに共有されるべきだと思う。

eizo-gak.comのコンセプトは、うp主(雪原てとら)の思考を書き残すこと。だったら、やはり記事を書かずにはいられないと考えるようになった。この記事では、動画では触れなかったことについても追加している。


Google Earthでロケ地探しを重ねて、ブルーインパルスを撮影するなら隅田川沿いがベストだと判断した。せっかく東京に機体が来るなら、広角で建物と絡めてみたい。この地点でうまくいけば、現代の東京を象徴する東京スカイツリー・首都高速・アサヒビール本社などを、写真のストーリーに絡めることができる。

当日11:00まで機体通過経路は未公開だったが、熱心な航空ファンの経路予想を信じればここはまず外さない。しかも直前になって2回通過してくれることが分かって、ちょっぴりハッピーな気持ちになった。ここでは2回目の通過を振り返っている。

隅田川の空気感

私はずいぶん早くに到着。今回行動を共にするYUさんも、まもなくやってくる。

撮影機材を準備してからは暇なので、レンズを貸し借りしてニヤニヤしたり試写したりしていた。この後、まさかこんなに人が集まるなんて思わなかった。自らのキャパを早めに確保しておいて正解。広角レンズで撮るなら、ロケーションはどうしても限られてしまうので。

周りにも観衆が増えてきた。

河川敷には、日傘に仲良く収まるカップル。隣には、キットレンズの望遠ズームをわくわくしながら取り出す少年。その向こうには、フルサイズレフ機と広角F2.8ズームを持ってきたNPSストラップ持ち、たぶんガチの写真屋さんだろう。がっしりした三脚をちょっと遠慮気味に立てたお兄さんは、300mm F2.8で準備万端。まずとりあえず、自撮り棒を構える家族連れのお母さん。スマホ片手に会社を抜け出してきたクールビズのお姉さん。カメラも何も持たず、眩しそうに空を眺める初老の紳士。

みんな楽しみ方はそれぞれ。

ブルーインパルスの通過は、もう目前に迫っている。

その時。急にあたりが静かになった。これだけの人が集まっているけれど、通過が近いことをなんとなく悟って、みんな声を抑えたのである。数分前までおしゃべりばかりが聞こえていた隅田川河川敷は、もう川の波立ちの音や首都高の車のロードノイズまで聞こえるほど。とても華の観光地、浅草の光景ではない。向こうにある東武鉄道の線路からは、浅草駅の急カーブを曲がる普通電車の轟音がはっきり響いてくる。

ちょっと不思議。緊張感とワクワク感に包まれたこの静寂な空間、すがすがしい青空とあわせて1枚撮っておきたい。

主人公登場。

かすかなエンジン音が聞こえてきた。さぁどこからやってくる?

航空ショーにすら行ったことのない私は、まったく構図の組み方が分からなかった。想定以上に高いところを飛んできているのが分かったとき、もっと上へ上へ画角を修正しなければならないと気づいた。

ブルーインパルスがいつ通るかなんて気にしていない車もたくさん走っていそうな、首都高速6号向島線の高架。ここに画角の底を合わせる。空模様はどうか。ギャルゲにも使えそうなくらいのすばらしい夏空だ。かすかな雲はもう気にならないので、コンディションは完璧。あとは盛大なスモークをお願いするだけ。

スカイツリーの真上を通過する。

まだまだ。浅草橋のゴールデンウンコビルに寄ってくるまでじっと待って。

丁寧にシャッターを切る。X-T3の小気味良いシャッター音を響かせながら、チラチラと空を見上げる。ファインダー撮影で済ませるのはなんだかもったいない気がしたので、リアルのブルーインパルスを肉眼でも追いかける。

すごく綺麗だった。

ステキだった。

早すぎず遅すぎず、優雅で白い航跡が伸びていく。

エンジン音が遠ざかって、あたりに静寂がもどる。

直後に起こった大きな拍手がなにより印象的だった。

誰も「ありがとう!!」なんて叫ばない代わりに、その言葉を心に秘めた大きな拍手だった。主催者がこの場にいるわけでも、お偉いさんがこの場に来ているわけでもない。誰かが始めた寒いノリでもない。みんながただただ心の底から感謝しているはずだ。いいものを見せてもらいました、って感じで。

コロナ禍で、別に悪意はなくとも周囲がなんとなくギスギスした空気に包まれている。そんな時代の中で、久々に感じた大勢の心の温かさだった。テレビやフィクション上のストーリーでは満たされない何かが、ここでは満たされた気がした。

大勢の人が集まればたしかに密になるけれど、だれも大騒ぎなんてしなかった。ただ童心に帰るように見とれてしまった。


広角ズーム「XF10-24mmF4」の存在

次なる経由地、東京駅の方角へ去っていくブルーインパルスを名残惜しく見送る。

さようなら。

今回の撮影はすべて「XF 10-24mm F4 R OIS」という広角ズームレンズで済ませている。これは私が、SONY EマウントからFUJIFILM Xマウントに乗り換えた時に購入した最初のFUJIFILM純正レンズだ。OIS(手振れ補正)がついた400gほどのレンズで動画にも写真にも欠かせない一本。フルサイズ換算で画角15-36mmに相当する。

広角ズームの望遠端、24mm(換算35mm)付近は人物1人を中心としたメッセージを表すのに適している。ふだん人物撮影をまったくしない私にとって35mmレンズは難しくて扱いづらい。けれどもこういう人を撮る時には、途端にチョ~ありがたい撮影機材に変身する。

またフォトグラファーのYUさんとコラボできたことで、広角ズームでの撮影に集中することができた。彼は動画内でSIGMAの70-200mm / 150-600mmを持ってきてくれたことから分かる通り、望遠~超望遠撮影を大変得意としている。私がブルーインパルスに見とれながら広角でシャッターを切っている間、YUさんは5色のストライプを描く機体を望遠で見事に収めている。