きっかけ
イギリス・マンチェスターの街に滞在中、2週目の休日を迎えた。
同行の友人たちは相変わらず遠出をすると行っている。目的地を尋ねると、Llandudno、Windermere、Londonと有名なロケーションばかりだった。もちろんそれは真っ当な観光のやり方だと思うが、なんだか逆張りしたい気分になってきた私は、Google Mapを開いて “未開拓” な観光スポットはないかと探した。
そのとき目に留まったのが、マンチェスター - ヨーク間を結ぶ鉄道の沿線風景だ。マンチェスターから東へ線路をたどると、やがて近郊区間に入り、無人駅がぽつぽつと点在するようになる。
そんな無人駅の1つ、Greenfield の駅近くに、大きな電波塔の立っている広大な草原があるのを見過ごさなかった。
TransPennine Expressの列車で郊外の駅へ
マンチェスターに3つある鉄道ターミナル駅の1つ、Manchester Picaddily駅から列車に乗る。Marsden行のトランスペナイン・エクスプレス。3両のディーゼルカー Class185 が待っていた。カミンズ製のエンジンが豪快に吹き上がる。
駅スナップに夢中で乗り遅れそうになったが、先頭車両になんとか駆け込んだ。 First Class の横の補助席に腰掛ける。昼間から明らかに酒の入っているオッサンらと相席。
10分もしないうちに窓の外は緑で豊かになっていく。始発駅からわずか3駅、Greenfield駅 で下車。現地住人だけでなく輪行サイクリストやレジャーと思わしき家族も一緒に下車。検札も駅改札もなかったが大丈夫なのだろうか。
緑の小径でストリートスナップ
駅北側にある丘に登るアプローチを探す。
Google Mapの案内では電波塔(山頂)まで徒歩39分とのことだが、視覚的に大きく見える丘を前に本当に登れるのか不安になってくる。とりあえずストリートスナップで平常心を保つことにした。
木々が無いせいか、遠近感のバグった写真を量産できる。下の写真には、中腹に登山者がとても小さく映り込んでいる。稜線に刺さった剣のような構造物も印象的。(クリックで拡大できます)
採石場跡を歩く
丘へのアプローチらしきところを探していると、自然発見路のようなハイキングコースを見つけた。採石場跡らしい。人工的に緑化されたような痕跡が見られる。あまりに人の気配がせず変な動物でも出てきたら嫌だったので(イギリスでは熊が絶滅したと聞いたが)、ヰ世界情緒 『ディメンション』 を爆音で流して場を凌ぐ。
やがて小さな展望台に到着した。シャッターを切って一息つく。
不法侵入?
Google Mapには記載がないのだが、展望台から上に登る道が用意されていた。電波塔(山頂)への近道としてこれを利用しない手はない。道を駆け上がるとフェンス越しの草原が現れた。
明らかにフェンスの先は誰かの私有地。だがゴールの電波塔も向こうである。ここで引き下がるのは納得がいかない。
…ん、都合のいい踏み台を発見。
侵入完了っと…。
特に誰にも見られていなかったし、なんとも都合よく倒れたフェンスと踏み台が用意されていたので気にせず立ち入ることにした。草原にはFootpathという立っているだけで、入ったらダメとは書いていない。
「Footpath」 とはなんだ?
その言葉の意味が気になったのでその場で調べてみた。そして驚いた。見た目からして、電力会社の巡視路みたいな係員通路の案内かなと思っていたが、どうやらこれはれっきとした公共の遊歩道らしい。
もともと私有地の多いイギリスでは、生活道路として、堂々と農場の真ん中を歩いていったほうが何かと便利な事が多かったようだ。それが 「歩く権利」 の主張につながり、やがてFootpathとして指定された道は誰でも歩けるように法制化された。
こういったFootpathはイギリス全土に張り巡らされている。
丘のFootpathを歩くのは最高だった。
静かな丘陵地帯に、爽やかな風が吹き付けるびゅうびゅうという音だけが聞こえる。晴れ渡った夏空に浮かぶ雲の影が地面をゆっくりとなめていく。まるでセカイ系アニメの背景をそのまま持ってきたかのような世界観だった。そのビジュアルや空気感をレンズ越しの映像で表現しきれないことがただただ悔しかった。
綿毛がふわふわと舞う
羊の群れと遭遇
農場で羊が飼育されていた。Footpathの周りがフェンスで覆われていたのは、たんに羊の脱走防止という理由だったのかもしれない。望遠レンズ XF55-200mm で羊の表情を完璧に写し取る。カメラ目線を演出した羊に感謝。
うんこ💩!
頂上の電波塔
Footpathは丘の頂上まで続いていた。
怠惰な勤務態度の羊たちが放牧されている。家畜に取り囲まれたりしたら怖いので遠くから眺める。背景にはどこまでも続く田園風景が雄大に映し出されていた。
ただただ青空の下に、無人の電波塔がそびえ立っていた。マンチェスター上空は航空機の通り道になっているようで、無数の飛行機雲が絶え間なく描かれていく。人々は丘に挟まれた谷間に生活している。
霞みのむこうに、マンチェスター市内の高層ビル群が望める。
その他の写真
記事に収まりきらなかった写真を置いておきます。
帰路、淡い夕陽がPiccadilly駅を包む