いわゆる3大禁忌とされている話題は「政治・宗教・野球」です。しかし写真界隈でテキスト・コミュニケーションをするうえではもうひとつタブーが存在します。それが「F値換算」の話題です。
現代のデジタルカメラはイメージセンサーで画像を記録しているわけですが、機種によって1/2.5型・1型・マイクロフォーサーズ・APS-C・APS-H・35mmフルサイズ・中版などサイズの異なるセンサーを積んでおり、同じレンズを使用しても映り方が変化します。そのため、慣習として「このレンズはフルサイズ換算で〇〇mmだね」みたいな計算をよくやります。例えば「APS-Cの50mm=フルサイズ換算75mm」といった具合です。ここまではおおむね多くの人の見解の一致するところなのですが、問題となるのがレンズの明るさ、すなわちF値です。
ボケを大きくする方法は「望遠に寄る」もしくは「絞りを開く」です。APS-Cとフルサイズに同じ焦点距離のレンズをつけたとき、フルサイズでは望遠に寄る関係でボケが大きくなります。またレンズの絞りを開く(「F2→F1.4」みたいに操作する)とセンサーサイズ問わず光量が増えてボケが大きくなります。
カメラ側のセンサーサイズが変わったところで、別にレンズのF値(入ってくる光量)が急に変わったりはしません。たとえば「50mm F1.4のレンズ」をAPS-Cに付けたところで、そのレンズが突然暗くなり「換算75mm F2のレンズ」になるわけではなく、あくまで原理の上では「換算75mm F1.4 のレンズ」なのです。
ところが厄介なことに、センサーの大きさによって取り入れられる光量がそもそも異なるんですよね。カメラをマニュアルモード(ISOを固定)で使っていると、感覚としては「APS-Cでいう50mm F1.4」=「フルサイズでいう75mmF2」と同じ明るさ・ボケ感なわけです。したがって原理的にはおかしいのですが、F値も段数を上げて計算してしまったほうが撮影時には楽なのです。原理的にはおかしいんですけどね。
このように正しい単位の使い方と実用的に楽な計算方法が異なるため、うっかり掲示板でこのあたりを厳密に質問しようものなら、議論がアンジャッシュする可能性が大いにあるのです。たとえばパナソニックから出ている「LEICA DG NOCTICRON 42.5mm / F1.2 ASPH.」について「フルサイズ換算で85mm F2.4相当か。まぁまぁ明るいやん」などとレビューに書き込んだ暁には、誰の計算が正しいかはともかく、「”85mm F1.2相当のレンズ”だろ!訂正しろ!」と罵詈雑言が飛び交うことでしょう。
すでに意味がわからないという人も多いかと思いますが、それは正しい感想で、この「明るさ」に関するコミュニケーションは議論の前提が狂っていると訳がわからなくなるのです。通話や対面でやるならともかく、SNSや掲示板のような文字媒体ならなおさらです。
「フルサイズとマイクロフォーサーズではどちらが明るいのか?」のような、おそらく感覚面を尋ねる質問があれば、求められた回答が来ることはおそらくほぼなく、逆にカオスな議論が始まります。
ある人はISO AUTOで露出が自動で揃うことを前提に喋り、ある人はマニュアルでISOを揃えた際の感覚的な明るさについて喋り、ある人は「換算でレンズの有効口径が変わるわけがないだろ」とケチをつけ、ある人はトリミングで画角を揃えることを前提に持論を展開し、ある人は突然ルクスやピクセル単位で謎の計算を始め、またある人は「望遠において被写界深度が深いほうが良い」みたいな主張を繰り返し、いよいよ収拾がつかなくなります。
ここから学ぶことはただ一つで、ネットのコミュニケーションにおいて「レンズのF値換算」などというものは話題に出すと面倒くさいだけの、タブーであるということです。ちなみにこういう不毛な議論をわざわざ眺めて楽しみたいという方は「価格.com センサーサイズ 明るさ」とGoogle検索するといいです。
有意義な解説 → 『焦点距離?ボケ量?フルサイズ換算だとどうなるの?』https://focus-position.com/kansan/
書いてて自分でも訳がわからなくなった。やはりこういう話を文字でやるのは横着です。