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ハリー・ポッターの舞台を観にいってきた

舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』を観に行ってきました。「たまには映像だけじゃなく、生の舞台を観にいくと文化的知見が広がるはずだ」といった感じで家族に薦められて、なるほどたしかにその通りだ、と思ったのがきっかけです。劇場は東京・赤坂にあるTBS赤坂ACTシアター。大学の通学経路にも近くて、アクセスのいい場所でした。

思い返してみれば、私は演劇とかミュージカルといったものを、おおよそまじめに観た経験がありませんでした。リビングのデカいテレビで、宝塚の『はいからさんが通る』の上演映像を楽しんだことはありましたが、逆に言えばそれくらいです。そんなわけでいったい舞台とはどんなものなんだろうかと心の内で楽しみにしていました。

チケットを片手に

地下鉄の駅から階段を上がってくると、すぐにTBSの本社ビルが見えてきます。ACTシアターはそのすぐ隣の建物です。すでにハリー・ポッターの世界観が、劇場の外まで(なんなら赤坂駅の構内まで)広がっていて力の入れ具合が伝わります。

劇場って色々な演目をやっているものだと思い込んでいたのですが、ここはどうやらそうではなくて、現在のところはハリー・ポッターただ1つに専念しているみたいです。ただ、舞台を観た後では「これほどの演出だと、そりゃ専用劇場になるわけだわ…」という感想に変わります。

開演前の舞台を撮ってOKとのことで1枚。S席で楽しむことができました。お客さんは女性比が若干高いかなという印象でしたが肩身が狭いというほどではまったくありません。舞台によってはもっと男女比が偏っていることもあるんだそうです。

私はビビリなので開演20分前くらいには椅子に座っていました。ところがS席であるにも関わらず、開演10分前になっても周りがガラガラです。人気のハリポタ舞台、休日で満席近いはずなので「どういう状況?」と思っていました。面白いのがここからで、開演3分前くらいに、いかにも友達どうしって雰囲気のお客さんが何グループも入ってきます。しかもみんな「ギリ間に合った…!」と駆け込む感じじゃなくて、「さぁ今日も観るぞ…!」という顔。気がついた時には、見渡す限りの座席がどれも埋まっていました。

視界のいい席だったこともあって、どうやら周りが観劇ガチ勢のお客さんばかりだったらしく、みんな場馴れしているからこその入場作法だったようです。お客さんもプロって感じ。目に入るすべてが興味深い世界です。

高い完成度で演出される魔法の数々

『呪いの子』の時間軸はハリー・ポッターの19年後の世界。ハリーの子ども世代がわちゃわちゃし、周りの人物が巻き込まれてゆくお話です。シナリオはおなじみ、原作者のJ.K.ローリングさんが書いています。ハリー・ポッターの本もしくは映画を過去に一度楽しんだ人であれば、概ねついていけるように作られていると感じました。良いシナリオです。

さて、映画であれば魔法はCGを使って表現できますが、現実の劇場だとそうもいきません。

しかし驚くべきことに、照明や舞台装置を駆使した技術によって、体感では映画の表現と遜色ないくらいに魔法が再現されています。謎の技術によって、ワイヤーも見えないのにホウキが浮いたり、タイムターナーがくるくる回ったり、どう安全を確保しているのかさっぱり分からないですが、火柱が演者をかすめたりします。いずれも圧倒されました。そりゃあACTシアターがハリポタ専門になるわけです。

なかなかこの凄さを伝えるのが難しいので、公式のプロモーションビデオを参考に紹介します。以下の2つのPVには「ここはCGかな」と思うような効果がぱっと見いくつかあると思います。ところがこれら全てが、どういうわけかまったく同じ見た目で舞台上に表現されてしまうわけです。脳がとてもバグります。ディズニーランドに行ってアトラクションの技術面ばっかり気にしちゃうような人にとっては、おそらく最高の舞台かと思います。

空間と時間の織りなすリズム

場面転換のたびに、登場人物がマントをバサッとやって入退場していきます。音楽とマッチした緩急のついた動き。モーショングラフィックスのチュートリアルで、イージングの概念を知った時くらいの新鮮さがそこにはあります。

舞台の展開に、場面転換・音楽・照明・魔法の効果で作られた心地いいリズムがあるわけです。伝わりづらい例えかもしれませんが、URA AC-promenadeさんによる〈物語〉シリーズの映像に込められたリズム感にも近いものを感じます。というか、URAさんの映像って改めて見てみると1つの劇みたいだなぁと。

舞台を楽しむ手段には、映像と観劇の2つの手段がありますが、両者の最大の違いは「舞台のどこにフォーカスできるか」です。舞台映像を視聴する場合は基本的にレンズで切り取られているので、どうしても喋っている登場人物が大きく印象付けられてしまうのに対し、観劇では舞台上のどこを見ても自由です。好きなところに目線を運ぶことができます。

上演中、いつもメインの登場人物だけが喋っているわけではありません。例えばホグワーツ特急の車内では、他の生徒たちが周囲の座席で会話を繰り広げています。どんなシーンでも照明が当たっている限り、基本静止する人物というのが存在せず皆生きています。そういったシーンで、主人公以外にもフォーカスできるのは観劇の面白いところで、これは世界観にどっぷり浸かるうえで大切な要素なのではないでしょうか。まるで『らき☆すた』OPのガヤ部分みたいに、全員が喋っていて、全員に動きも与えられているイメージ。このイメージを体験できるのは観劇の醍醐味です。

記憶に残るサウンド

音響も素晴らしかったです。本作ではタイムターナーというタイムマシンがひとつのキーアイテムですが、これが使われる時にすさまじい重低音が響くので、ぐっと観ている側も時間軸に引き込まれる感触があります。映画館よりも凄い重低音で、まるで風を感じるようなレベルです。それから、ディメンターさんが登場する時のサウンドは普通に怖いので、あれは小さい子どもが見たらたぶん泣きます。関係あるのかどうかは知りませんが、未就学児は入場不可です。

こんなカワイイものではない。

演者さんの滑舌が良いのは言うまでもないことですが、早口のセリフが3時間(途中休憩ありではあるが)ほぼぶっ通しで耳に飛び込んでくるので、観ている側も頭がフル回転になります。閉幕直後、帰宅するまでは不思議と疲れはなかったのですが、その晩寝たときの夢は延々とハリポタのセリフが流れていたので、記憶にはいい刺激になっているんだと思いました。

あんまり語りすぎるとネタバレになってしまうので控えますが、舞台が持つ独特の時間・空間は、想像していた以上に記憶に深く刻まれるものでした。リピーターがいっぱいいるのも納得です。劇場に足を運んで本当に良かったです。

上映3時間は腰に悪いですが、充実した最高の3時間です。