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カジュアル思考のコンテクスト

映像学区の題材選びで大事にしているコンセプトがいくつかあります。その一つが「誰でもカンタンにできるカジュアルな動画づくり」というものです。今日はこの「カジュアル」という、取ってつけたような外来語について書いてみようと思います。

カジュアルをデジタル大辞泉で叩くと、「格式ばらず、くつろいでいるさま」とありました。主にファッションに使われるキーワードですが、これって映像やデザインにも積極的に取り入れていいと思うんです。創作全般、まずはくつろいだ状態から始めたほうが長続きします。

私のいうカジュアルには、「商業レベルのガチ勢にはおよばないけれど、それでもほどよく見栄えがあって楽しい創作」という文脈があります。したがって「カジュアル」の対極に位置するのが、「商業制作レベル」だということもできます。若干語弊はありますけどね。

映像にせよ小説にせよ音楽にせよ、芸術を突き詰めていけば、いつかは商業として扱われる範疇に到達します。最高のものやクリエイターに憧れる私たちは、ついついそういった商業制作レベルを最初からゴールにしがちです。それができるようにならなきゃ、と焦ります。そりゃまぁ、せっかくなら芸術で何かデカい依頼をもらいたいですし、せっかくなら最高の機材を買いたいものです。それ自体は悪いことではないです。

ただ、何も最初から全員が「プロ並みでなければ」という覚悟が必要なわけではないと思うんですよ。そんなに焦らないほうが精神衛生上いいです。最初はもっと趣味として楽しめる範囲の、軽めの、程よいレベルを目指すほうが気がラクだと思います。

カメラを手にしたところで、別に購入費用を回収しなくたっていい。スナップや動画を撮ったところで、それを自己満足で眺めるだけでも、あなたの創作は意味を成しています。現に写真旅シリーズは、うp主が後で眺める用に作っているので、半分道楽みたいなものです。自分が創作に求めている分だけ、ゆったり楽しめればOKなんです。

そもそも「程よい」という概念は、あらゆるジャンルの動画編集を救うと思います。カジュアルを重視するといろいろなメリットがあります。

ゆっくり映像学区を何年も投稿し続けていると、創作のジャンルを問わずいろいろなクリエイターさんのコメントに出会います。企画開始当初、私は「せいぜいAviUtlでアニメーションを作りたい初心者に届くのが精一杯だろう」と思っていたので、ちょっと想定外でした。

彼ら彼女らのコメントで学んだことがあります。それは、動画をあくまでコミュニケーションツールの1つとして勉強する人がたくさんいるということです。動画づくりそのものが趣味というよりは、何か別のジャンルのコンテンツを伝えるために動画を作りたいと。

どうやら皆さんから求められていたのは、必ずしも「すさまじい表現の作り方」だけとは限らなくて、「ラクにそれなりの動画を作るための基礎」だったようです。必ずしも全員に動画の最高峰が必要とは限らなくて、ほどほどにいいものを作れればそれでもOKなんです。

逆に初めからあんまり高みを目指しすぎると、いつまでも動画が完成しなかったり、予算がいつまでも付けられなかったり、デザインを無視したエフェクトが混じったりします。

コメントやDMでは、よく「カメラ選びを教えてほしい」という質問が飛んできます。初歩の質問も多いですが、「そのくらいの自分で調べなよ」などと一蹴することはまずありません。予算も目的も1人1人異なる趣味において、「ちょうどいい・程よいもの」を探す難しさが、よく分かるからです。

専攻が映像とはまったく関係ない学生でも手が出せるくらいの金額で、はじめての「ちょうどいい・程よいカメラ」を探すのって、結構難しいんですよね。相当な量のチュートリアルやレビュー動画を観てもなお悩むくらいだから、それこそ入門者にとっては本当に難しいはずです。

これがもし映像屋さんを目指している人であれば「三脚雲台はザハトラー。カメラはブラマジ派ならBMPCC系かursa系、キヤノン派だったらCinemaEOS、ソニー派ならFX3。あっ、サブ機とカムコーダーもお忘れなく……」みたいに、ある程度相場が決まっています。

これらのプロ御用達機材が値段的にお気楽でないのは言うまでもないことですが、同時に、旅行や普段実際に使う上でもお気楽でないケースがあります。色出しが綺麗にできるシネマカメラにはAFの効かないものが山ほどありますし、ゴツい見た目のリグを持ち歩いて旅行すると周りの目が気になります。これでは正直とてもカジュアルな撮影環境とは呼べないと思います。

もちろん、趣味に最高峰の環境なんて不要だ!と主張したいのではありません。どうしても必要に迫られたときには、むしろ「ほしぃ~🤤」という心の声に身を任せて、速やかにポチるべきです。例えば趣味で激しく動く被写体(飛行機・鉄道・モーターレース・鳥など)を追いかける人が、1DX・Z9・α1を選ぶというなら大いに納得がいきます。それでしか撮れない境地があるからです。

ただ、強迫観念だけで無理に「プロ並み」を目指すのはあまりおすすめしません。TwitterやInstagramでつよつよな作品を出してくるクリエイターばかりが見えてしまう世の中ですが、そんな時代だからこそ、1人くらいラクで程よい動画づくりを推奨するチャンネルがあってもいいじゃないか。そんな思いを込めた「カジュアル」です。